コロナ騒動があってから、ああ、これあの作品でもあったよね、と思うことが増えましたね。フィクションと現実との垣根ってけっこう低かったんだな、と思うことがわりにあっさり起こるので
「こんなの物語の中だから起こることで現実でこんなバカなことは起こらないでしょ」
というのがこう簡単に起こると創作する人ってやりづらいだろうなあ、と思ったりもします。
安倍昭恵さんのニュースを見て、こういう周囲の頭痛の種になっているトップレディって見覚えがあるなあ、と思ったらプラティナ王妃が思い浮かんでTONOさん「アデライトの花」といい二回も続けて自分の作品と現実がリンクするようなことが起こったんか、と思いました。
カルバニア国、現女王タニアの少女時代の思い出話。名君として評判が良かった前国王に比べて悪評ばかりのプラティナ妃。何故評判が悪いかと言うと
「貴女が生まれた時、本当に私はがっかりしたのよ」
と娘に言ってしまうような人だから。でも、これが悪意を持って言っている訳ではなくて
「男の子じゃなくてがっかりしたの?」
と聞く娘に
「違うわ、黒髪だったからよ。どうしたら私と同じ金髪に生まれなかったの?そうしたら二人お揃いの格好が出来たのに」
お洒落女子丸出しの言葉で。二人揃ってお揃いのコーディネートできたら、とっても可愛くて素敵だったのに!という女の子としての言葉だったのですね。
「 母としての」でもなく「王妃として」の言葉でもなく、ひたすらお洒落が好きな女の子としての言葉。だから
「タニアは本当に可愛いのに。これで金髪だったら完璧だったわ」
と娘の為を思って、胡散臭い商人から手に入れた怪しい塗り薬を「黒髪を金髪に変える薬」として娘に与えてしまい、タニアの髪が抜け落ちる程の酷い炎症を起こさせてしまう。
おかげでタニアは腫れ上がって目を開けることもできなくなった顔と髪が抜け落ち頭皮が爛れた頭が元の状態に戻るまで母の元を離れて離宮で過ごさなければならなくなるわけです。
それでもタニアは、この困った母が嫌いになれない。何故なら「騒動ばかり起こす困った王妃」として周囲から見られている母が父と自分を心の底から愛していることを知っているから。
娘が離宮にいる間は、娘を偲んで娘が汚した手形が残る服を眺めては涙を流し続けた母。父と自分の為に(二人がそれを困ったものだと溜息をついていることを知りながら)幸運のラッキーアイテムを買い求め続ける母。
元々、先王には大恋愛の末結ばれた婚約者がいたけれど、彼女は結婚式直前になって病死。
失意の国王の為にと「若くて、美人だから」という理由で亡き婚約者とは正反対のタイプのプラティナ妃を周囲が選んで結婚させたという経緯があるので
「お后教育をろくに受けていないのだから王妃としての自覚がないのはいたしかたないけど、せめて『若くて美人』の妃に求められた『跡取りを沢山産む』という役目ぐらいは果たしてもらいたい」
と、周囲の目も冷ややか。そんな折に急な病で国王が倒れ危篤状態。
「どうするんだよ、この国。役に立たない王女が一人しかいないのに。今、王様が亡くなったら」
と、王宮は大混乱。この後起こった出来事と、その対処法で能力の高さを示したことで
「この王女なら、女王にしても悪くないんじゃないか」
と周囲の風向きが変わり、カルバニア初の女王の誕生へのきっかけとなるという風に物語が進むのですが
「お母さまにろくでもないことを吹き込んだ」
としてタニアに嫌われてた占い師からの必死の願いで彼女に面会した時のやり取りがなかなか良くって。
「こ、これだけはどうしても聞いていただきたくて。どうか信じてください、タニア様。今回のことも含めてプラティナ様の行いは全てタニア様と王様の為を思ってやったこと。
あの方は、いつも不安でした。いつか王様とタニア様の愛情を失うんじゃないかと不安に怯えていたんです」
占い師の自己弁護を聞かされる為に面会を求められたと思ってやって来たタニアが虚を突かれ、頰を紅くし
「バカバカしい!そんなこと、おまえに言われなくたって知っているわ!」
と言い捨てて占い師のもとを立ち去る時、その後ろ姿に向かってタニアの後ろ盾となっていたタンタロット公爵が言うのです。
「一人息子を病で亡くしましてね。それからですよ。あの女が占いやら呪いやらに傾倒するようになったのは」
続くタニアのモノローグ
「誰がいけなかったのかしら?お母さまの弱さや愚かさ、懸命な気持ちにつけ込んでくるハイエナのような人間」
「みんな、私を見てる。こういう立場に立つものは心の中に持たなければいけないんだわ。冷たく、硬い宝石のような気持ちを」
この回のタニアはほんと名台詞が多くて好き。全てが終わった後、にっこり笑って言う言葉がいいの。
「絶対も、永遠も、魔法も、奇跡もこの世にはない。
でもねえ、時には必要なのよ。私達が生きてゆくためには、どうしてもそんな言葉が。
だから言ってね。嘘でいいのよ。信じないから」
自分の大事な人が死の淵にいる時、奇跡を望まない人だけが愚かな王妃に石を投げなさいということですよね。