木曜日の本棚

本と本に関することの記録です。

海街diary9 行ってくる

海街diary、今頃最終巻を読んだのだけれど四姉妹が家族になっていく姿を描いだ物語を、家族になれなかった弟の話で閉じるところが吉田秋生だなあ、と思いました。 

あ、本編自体は家族の物語として閉じてます。本編の後、本編から十年後の話が短編として入っていまして、そちらが四女の義弟が主人公。浅野四姉妹のうち四女だけが顔を出さずに出ています。 

すずは浅野三姉妹から見ると「父に置いて行かれた妹」なのですが、短編の主人公である和樹の立場から見ると「自分達を置いていった姉」なんですね。 

そして和樹にとっては、今でも「お姉ちゃん」だけど、すずにとっては「かつて弟だった人」という片思い関係があるのがせつない。 

本編でもすずが 

「私は山形の家も山形の家族も好きじゃなかった。そのことは和樹も気づいていただろう」と思う場面がありますが、短編でも和樹が 

「お姉ちゃんは、この町もおれたちのことも好きじゃなかった。当たり前だ突然現れた『母親と弟』を受け入れられる筈がない」 

 とモノローグで語っていて、嫌悪の感情は伝わりやすいのに好意の感情は伝わりにくいのかな?と言葉にせずとも伝わる感情の伝わりやすさと伝わりにくさを思ったりして。 

 一時期、姉弟だった二人は十年たって、すずは妹となり、和樹は兄となった。

 三人の姉に守られて成人し、次姉の紹介した寺に父の墓を移す為にやって来たすずに、今まで父の墓を護ってくれた礼を言われ

「あたりまえだよ。浅野のおじさんは『お父さん』だったんだから」

 と返し

「『父親』というもの殴るものだと思っていた。殴ったり、怒鳴ったりしない母親の男は浅野さんだけだった。」

「俺の家族はそういう家族だ」

 と思う和樹は兄となった。兄にならざるをえなかった。 守ってくれる姉達を持たなかったすずが和樹でもあるのですよね。 

 和樹の物語は、ようやく本がでますね。短編シリーズ連載は本になるまで時間がかかりますものね。 

 詩歌川百景の方が海街diaryより閉塞感がある気がするのは海がないからだろうか。

主人公が男の子で、置かれている状況がしんどいというのは海街diaryではなくラヴァーズキスの方を連想するけど、あれはしんどさはあるけど閉塞感はなかった気がするのですよね。

(それにしてもラヴァーズキス、男女の恋の話より、男同士の恋、女同士の恋の話の方が切なさや爽やかさがあった気がするなあ。男女の恋の話はお互いの抱えている傷についても絡んだ話だったけど、男同士の恋、女同士の恋の話は純粋に恋という感情がメインの話だったからかしら?)

 詩歌川百景が完結するまで何年かかるか分からないけど、海街diaryも完結するまで十年くらいかかっているから、ラヴァーズキスから数えると、もの凄い長距離走になりますね。

 そして、海街diary 最終巻まで読んで、あらためて思ったけれど浅野姉妹の父、女性の好みが一貫してますねえ。すずのお母さんは、人の語りからしか出てこないから造詣がいまいち分かりにくいけれど、最初の妻と最後の妻を見ると「自分がいないとダメだ」と思わせるタイプの女性に弱かったとしか思えないもの。

 浅野姉妹の父が娘達から「優しいけれど弱い人」と評される理由がなんとなくわかるわ。

 

海街diary 9 行ってくる (flowers コミックス)

海街diary 9 行ってくる (flowers コミックス)