今月の古事記の講座の時、イザナミ、イザナギの話が出てきたので「あれ、愛しき我が汝妹の命」「愛しき我汝兄の命」って英語だとどういう訳したっけ?と疑問が湧きました。
すぐには思い出せなかったので本棚から「 Dragon Sword and Wind child 」を手にとって確認してみました。
Dragon Sword and Wind Child (Tales of Magatama Book 1) (English Edition)
- 作者:Ogiwara, Noriko
- 発売日: 2012/12/04
- メディア: Kindle版
萩原規子さんの「空色匂玉」の英訳版ですね。日本語版と比べると直球のタイトルだと思うけれど英語圏の人に匂玉といってもイメージが湧かないのだろうな。
「白鳥異伝」の方は「 Mirror Sword and Shadow Prince 」となっているし、日本人なら「白鳥異伝」というタイトルで「ヤマトタケルの異伝としての物語です」という意味を読み取れるけど、共通の知識の 土台がない人には無理でしょうね。
あの話、剣と匂玉が重要な位置を占める物語で、主人公は常に勾玉の持ち主だから剣の方だけにスポットライトをあてるのは片手落ちなのだけど、読者のことを考えるとシリーズ名を「 Tales of Magatama」としてバランスを取るやり方が正解でしょうね。
そういえば萩原さん、上橋さんとキャッシー平野さんという、作家とその著書を翻訳した翻訳者という組み合わせの対談を読んだことがあるけれど、翻訳者のキャッシーさんが
「『祭』を『festival』と訳してしまうと、祭り特有の特別な感じ、心踊る感じが出ない」
と、翻訳の苦労を語っていましたね。こういう文化背景による暗黙の了解がある本は訳すのは難しいのだろうな。
それでいったら萩原さんの「勾玉」のシリーズより上橋さんの「守り人」のシリーズの方が訳すのは楽そうですね。あれ、日本でも英語圏でもない異世界の話だから。
「これ、モデルはどう見ても天皇制だろう」とか「これ、どう見てもローマ帝国。そうするとこれ日本対ローマ帝国の話となるのか」
という感想が浮かんでも、どちらにとっても異世界の話だから文化背景が分からないことによるズレがない。(そう言えば「赤毛のアンに隠されたシェイクスピア」というタイトルの本もありましたね。直喩なら日本人にも分かりやすいけれど、英語圏の人は暗喩や、あえてそういう書き方をした表現から「これシェイクスピアだよね」と分かるのでしょうね」
で、何故古事記ではなく古事記にインスパイアされて書かれた物語を手に取ったのかというと家の本棚に英訳古事記がないからです。
萩原さん、輝の大神と闇の女神が再会した時、古事記の表現を使って互いを呼ばせているのですよね。で、確認してみたら
「 O my beloved」「O my beloved wife 」と呼びかけてまして、闇の女神が輝の大神を宥めようとする時「 My beloved husband」になっているのがなんとなくおかしい。
それにしても「 O my beloved 」という呼びかけだと古事記というよりロックバラードみたいね。