木曜日の本棚

本と本に関することの記録です。

ウォーターシップ・ダウンのウサギたち

アーサーランサムもいいけど神山先生の訃報に対して、誰かにお薦めしたいならこれかなあ。これ新装版出ていたんですね。

 

イギリスの片田舎に棲むウサギ達の物語というとピーターラビットを連想するけれど、ああいう牧歌的な話ではなくて(ああ活劇としてハラハラさせるという点では映画は似てるかなあ。まあ原作もわりとシビアだけど)、冒険小説であり、建国神話であり、英雄談であり、戦争小説なんですね。

 

平和な村に棲むヘイゼルは、シャーマン的能力のある弟ファイバーの

「すごく恐ろしいことだ!近づいてくる。ぐんぐんやって来る」

 という言葉を信じて、村長に避難を提言したが真面目に取り合ってもらえなかったので、自分の言葉を信じてくれる仲間達を説得して、群れの戒めを破って脱出し、安心して暮らせる土地を求めて旅に出る。

英国王のスピーチ」もそうだけど、イギリスはその責務に向いてないと思われたものが、その役割に相応しいものになろうと努力を重ね素晴らしいリーダーになっていく、という物語が好きなようで故郷にいた頃は平凡な若ウサギだったヘイゼルがだんだんと群を率いるリーダーらしくなっていくんですね。

 

 ヘイゼルと共に旅に出る仲間達も、途中から合流する仲間も対立する敵も凄くキャラが立っていていいんですよね。かといって凄く擬人化されている訳ではなく、牙も爪ももたない、人間には食糧として食べられてしまうウサギ達がどうやって安住の地を手に入れるのか?

 安心して暮らせる場所を手に入れた後は、どうやって伴侶を手に入れるのか?(ヘイゼルと仲間達は過酷な旅に耐えられ、いなくなっても仕方がないと諦めてもらえる若い牡だけなので)

 次から次へと現れる課題をクリアし、理想の暮らしを手に入れヘイゼルが天に召されるまでの物語なのだけど、ところどころ作者である

リチャード・アダムスの従軍体験や戦争体験が顔を覗かせていて、そういうところも好きですね。

 そういえばイギリスって強烈なカリスマを持つ敵と戦った国だったなあ。ウーンドウォート将軍とファイバーの邂逅で冷酷で恐ろしい強大な敵にも、心の中に柔らかく暖かい忘れられないものを持っていることを見せる場面も好き。