中村先生の訃報にショックを受けて思わず本棚を漁ってしましました。知らなかったけど、これ絶版になっていたんですね。ちくまが緊急復刻を決めたようだけど。この頃は油断すると名著でも簡単に手に入りにくくなるなあ。
この本は、まだ中村先生がハンセン病治療だけにたずさわっていた頃の話だけど読みかえすたびに色々考えますね。
ハンセン病って、伝染力が弱いのできちんと治療すれば、今はそんなに怖い病気じゃないのだけれど、戦乱の為に治療を受けることができず、医療関係者でも驚くほど顔が崩れてしまった女性に窒息死を防ぐ為に喉の切開手術をするか、どうか悩む場面がありまして。
進行してしまった病気の為に痰を上手く吐き出せないので、手術をしなければ、ふとした拍子に窒息するかもしれない。
手術をすれば窒息する危険は減る代わりに女性は声を失う。
手術した後、先生は煩悶するわけですよ。自分のしたことは正しかったのか。
窒息する危険を減らす為とはいえ、辛い思いをしてきた女性から声まで奪って良かったのか。
悩んで、悩んでクリスマスの朝、門番に
「先生、こいつらにこんな高い菓子を買っても味なんて分かりませんよ。こいつら、この菓子1個の値段を聞いたらきっと目を回しますぜ」
と、言われながらも
「いいから、買ってこい。俺の道楽だ」
と、自分のポケットマネーで病室中の患者の為にケーキを買ってこさせるのですよね。(アフガニスタンは貧富の差が激しい国などでケーキを買える層も存在します)
初めて食べる西洋菓子とお茶を談笑しながら楽しむ患者達に、これは自分の気休めだと書き記しながら、
「たとえ、ひと時でも彼女達に楽しい思い出を作ってあげだかった。甘い菓子とお茶が彼女達に生きる喜びを思い出させてくれることを願った」
と、綴られておりました。