木曜日の本棚

本と本に関することの記録です。

フィメールの逸話

そういえば古い少女マンガで、事故死した少年の魂が自殺した少女の体に入って(少女の魂は生を拒絶していたので、まだ息のある体は器が空になっている状態だった)、少女として生き返るという設定の作品がありましたね。

少女の体に入った少年は、生前同級生に片想いしていたので自分の体が少女になってしまったことに混乱するどころか「これで堂々とあの人に告白できる」といきいきと少女ライフを満喫していましたね。

生前の生活を見ると別に女性になりたかったわけではないのでしょうけど、それぐらい同性愛タブーのプレッシャーがきつかったということなのでしょうね。

自分の体が異性になってしまったことに全く抵抗感がなかった元少年と違い、片想いされていた同級生の方は今はどこからどこからどう切り取っても女性でも(事情を知らない他のクラスメイトからすると自殺未遂から生き返ってきたら、憑き物が落ちたように明るく魅力的になった彼女という状態ですし)、中身はかつての同級生で同性という事実に混乱を隠せなくて、なかなか彼女を受け入れられない。

 

これ、最初は気をつけて「僕」とう一人称を使っていた主人公がだんだんと

「今、私『私』という言葉を使ってる。今までは心の中では『僕』を使っていたのに。こんな風に意識しなくてもだんだん自然に女の子になっていくんだわ」

 と思ったり、人間の性を決めるのは肉体なのか、精神なのか、それとも社会的役割なのかを考えさせられて面白かったですね。

これネタバレになってしまうから興味を持ってくれた人には申し訳ないなと思いつつ書いてしまうのですが、色々あった後、最後に主人公は友達を庇って事故に遭ってしまうんですね。

 で、事故の後主人公は記憶を失ってしまうの。自分の体が、かつて別の人物の体であったことも。自分がかつて男性の体を持っていたことも。男性の体を持っていた頃、好きな人がいて、その人に何の障害もなく愛を打ち明けられるようになりたいと思っていたことも、全て忘れて、自分は友達を庇って事故にあった生まれついての女の子だと思っている。

 全てを覚えているのは彼女に愛されていた少年だけ。そして彼は

「あいつ、事故にあってから大人しくなったよな」

「やっぱり事故で記憶を無くしたせいで臆病になってるんじゃない?」

 という友達の会話を聞きながら、女になったことを喜び、女として誇りを持ち、あざやかに女であることを提唱した彼女はもういない、と思うのですよね。

 今、これKindle Unlimitedで読めるみたいですね。私、書籍の電子化はそんなに好きじゃないけれど(単純に目が疲れるので)こういう手に入りにくい過去の名作が電子化という形でも復刻されて読みたい人が読みやすい状況が作られるという点ではいいですね。

 主人公の恋がどうなったのかについてはご興味のある方ポチってみたください。というか私も読んだのが古すぎて、印象的な場面しかよく覚えてなかったわ。この手の少女漫画は今読んでもあまり古さを感じないですね。

 主人公が、自分が元男の子であったことを覚えていた頃の方が、女の子としての生を心のままに楽しんでいたというあのラストは色々なことを考える材料となりますね。

 

 

 

フィメールの逸話1

フィメールの逸話1