木曜日の本棚

本と本に関することの記録です。

お父さん、チビがいなくなりました

西さんといえば「お父さん、チビがいなくなりました」が映画化された時、主演の倍賞千恵子さんが

「この歳でラブロマンスの主演が出来たのが嬉しかった」

 と、インタビューで語ってまして。あれがなんか良かったなあ。確かに日本の映画で倍賞さん世代の方がラブロマンスの主役を張るのは珍しいかも。

 漫画の方は、自分より先に出世したという理由で恋人に振られた末娘の新しい恋も並行して描かれているので登場人物の感情に焦点を当てている感じがしたけれど、映画の方は「老いること」にも焦点を当てている感じがしましたね。

 かつて出来ていたことが出来なくなるという自分の老いへの恐れと、その恐れをお母さんには見せたくなくて、そっけなくしてしまうお父さんを藤竜也さんが上手に演じていたけれど、お父さんが自分以外の人に弱いところを見せていることを知ったお母さんは辛いよねえ。

 

 映画の方は「老いていく二人」にも焦点が当たっているから、漫画の方にあった愛情はあるんだけれど、それを上手く伝えられないお父さんの不器用さが表れている場面の印象が薄いのがちょっと残念かな。

 夫婦で一緒に旅行に出かける友達の話を聞かされた時は、羨ましがるお母さんにそっけない態度を取ったくせに旅行会社に行ってパンフレットをもらってくるとか(また間が悪いことに、お父さんが出かけている間にお母さんに友達からの旅行の誘いが入ってしまい、お父さんの態度にがっかりしていたお母さんはその誘いを受けてしまい、戻ってきたお父さんがパンフレットを見せる前に友達と旅行に行っていいか尋ねるんですよね)

 八百屋さんで

「栗入ってますよ。お好きでしょう?」

 と声をかけられ

「いや、そんなに好きじゃない」

 と返事を返した後

「え、毎年あんなに沢山買って帰られるからお好きだと思った」

 そう驚く八百屋さんに

「好きなのは、うちのと子供達」

 と、ボソッと応えるとか。相手に伝わらない愛情表現しか出来ない人だけと、妻や子への愛情は持っているというのが伝わる感じがしていいのですけどね。

 映画の方は映画の方で、名優二人が主役を張っているし、若い頃の二人の交流場面で昭和30年代の渋谷駅を再現していて、それが凄く昭和の恋という感じがしていいですけどね。