木曜日の本棚

本と本に関することの記録です。

格差と分断の社会地図

サヘル・ローズさんの話がFBで、流れてきまして。

fujinkoron.jp

シェアしてくれた人は、わりと素直に感動されまして。確かに良い話でシェアしたくなる気は分かるのですが、シェアされた記事を読む前に、こちらの本を先に読んでいたので、ちょっとひっかかってしまったのですよね。

苦労人の人情話は受けるよねえ。でも、この人情話に受けている人達のうち、どれくらいサヘルさんのように助けてもらえなかった子供のことを知っているのかしら?と。

光の部分だけ見ていると闇の部分は分からない。

サヘルさんのことは、「移民はなぜギャングになるのか―国籍格差」という国が見ないふりをしてきた移民の子供達について書かれた章の中で書かれているのですよね。

親に連れられてきた外国人労働者の子供が、文化も言葉も違う人間が日本で暮らす為の受け入れ体制も整えないまま、労働力だけを必要としてきた社会の中で、教育からも、社会保障からもこぼれ落ちていく様を綴られていましてね。

言葉が分からないので授業について行けず、小学校も中退し、教育も受けられない。親も子供のことは気にしているけれど、不安定な環境で働くことの方に時間を取られて子供を構ってあげられない。

そうやって社会から放置された子供が、やがて大人になり生きる糧を求めて国内にいる外国人をターゲットとした犯罪者になる。

そういうお定まりのパターンにはまってしまった子供達と同じような環境にありながら、そうならなかった対比例としてサヘルさんの話が出てくるのですよね。

小学校時代、日本語が分からず、授業についていけないサヘルさんに校長先生が声をかけて、授業についていけるように校長室で一対一で日本語の授業をしてくれた、というエピソード。

同じような環境にいながらも助けてくれる人がいた人といない人では、これだけの違いがあることの実例としてサヘルさんがあげられていたのですよね。

どう外国人を受け入れるのか?というシステムを作らないまま、行政の努力と現場の善意に丸投げした結果、良い人に出会えた運の良い子は、日本に溶けこみ、貧しい中でも周囲の支援を受けて頑張り、大学まで進学してタレントになり。良い人に出会える運のなかった子は小学校中退でギャングとなる。

どちらになるかは、ひたすら運という日本の現状が書かれていましたね。

 

石井さん、こういう運による格差がついてしまったことについて国の不作為をあげてましたね。

「国は、こういうことは予想出来なかったというけれど、労働力目当てだけでトルコ移民を積極的に招いたドイツの例を見れば、受け入れ体制を整えないまま外国人を入れれば、どうなるか予想できた筈だ。このままの状態を放置すれば諸外国同様、色々な問題が起きる」

 と、その反例として、不就学児童0を目指す岐阜県可児市の取り組みを紹介していましたね。

 実感として支援の必要性を痛感しているからだろうけど、子供をはじめ外国人への取り組みは国よりも地方自治体の方がまともなのですよねえ。

 だから、そういう自治体に出会えるかも、これまた運なのですよねえ。移民同士の情報ネットワークで、あそこは暮らしやすいという情報が飛び交っているかもしれませんけどね。

 

この本、日本の中の見えない格差「所得格差」「職業格差」「男女格差」「家庭格差」「国籍格差」「福祉格差」「世代格差」について触れられているけれど、それぞれの章について一冊くらい悠々書ける内容を一冊に纏めているので(実際、これ石井さんの別の本でも読んだな、と思うことも書いてあるし)、石井さんのわりには内容が薄いかな?と思わないでもないけれど、タイトルに「16歳からの“日本のリアル”」と書かれているように、自分の今いる環境が世の中の全てだと思っている高校生ぐらいの人を対象とした本なのでしょうね。

 

この国の中は、君が見ているものだけが全てじゃないよ。君が見えていない。そういうことがあることすら気づいていないことが、この国の中にはあるよ。さあ、君は見えなかったものを今見た。これから、どう考える?

 

この本のスタンスは、だいたいこれかな?だから高校生だけでなく、「この国で何が起こっているのか?」を知りたい大人にも格差とは、どういうことか?を理解する為の入門書としてはちょうどいいのじゃないかな?

もっと深く知りたければ色々ルポタージュが出ているわけだから、他の本も読み進めていけばいいし。鈴木亘教授の福祉論が、それなりに評価されているところを見ると

「この国は分断されていて、違う世界にいる人のことは見えていない」

というのは事実でしょうし。

 

石井さんが危惧しているのは、

「『ある』のに『見えていないから、無いことにされていること』を放置した結果、この国に何が起こるか?」

でしょうし、既にそれは就職氷河期世代という身近な実例がありますからね。