木曜日の本棚

本と本に関することの記録です。

家族と社会が壊れる時

東大の入学式での祝辞と早大の入学式での祝辞が比較されていまして。

https://www.waseda.jp/top/assets/uploads/2022/04/2204_speech_koreeda.pdf

 

東大の祝辞の方はかなり評判が悪いですが、河瀬監督からの祝辞だと思うとあまり違和感はないんですよね。

だって河瀬監督「玄牝」撮った人だし。

genpin.net

あの映画が撮られたの吉村医院での「幸せなお産」にこだわって、逆子だった赤ちゃんを亡くした人のブログが「どんなホラーよりも怖い」と話題になった後でしたものね。

natrom.hatenablog.com

だから吉村医院の掲げる「幸せなお産」が、現代医療なら救えた赤ちゃんの命を救えないものであることも。帝王切開という現代医療を避けたがるものであることも。その結果、赤ちゃんが死んでも「これも天命」と子供の両親に言わせるものであることも知ったうえで、あのドキュメンタリーを撮っているんですよね。

natrom.hatenablog.com

まあ、個人の信条や思想や信仰に他人がとやかく気はないですが、ハイリスク妊婦だと分かった時点で転院すれば助かる可能性があった赤ちゃんと、手遅れ寸前になってから運び込まれる妊婦の為に緊急対応とらざるを得ない周辺産科の医療関係者は何か言う権利はあるんじゃないかな。そういう哲学につきあう義理はないですしね。

 

なので河瀬監督については現実よりも観念を優先する人だな、と印象があったので、あまり驚かなかったし違和感もなかったのです。

 

逆に評判の良い早大の祝辞ですが、こちらもあまり違和感はなくて。是枝監督、ケン・ローチ監督大好きだものなあ。

ケン・ローチに憧れて続けてきた人が観念でものを語る筈がないのよ。

社会の暗い部分をどう目を逸らさずに見つめるか。声なき人の言葉をどうリアルに伝えるか。単純な二項対立に終わらない複雑な現実をどう描くか。

それを目指してきた人が、憧れの師匠に呆れらるような祝辞を贈る筈がないのよ。この本でもケン・ローチまったく手加減してませんしね。

今の社会への怒りで引退を撤回して、撮った映画が「家族を想うとき」だもの。この人に負けないよう社会を見つめ続けたと思うよねえ。

www.nhk.or.jp

河瀬監督と是枝監督の祝辞の違いって、世界を見つめたい人と社会を見つめたい人の違いのようで面白い。

 

そして「ゴールデンカムイ」がもうすぐ最終回なので、河瀬監督の祝辞を読むとやっぱりちょっと笑うよねえ。鶴見中尉とアシリパさんの会話の方が余程深いし、考えさせられるもの。

youngjump.jp

まあ、野田さん国境に接する北海道出身者だし、内陸の古都出身の河瀬監督とは見えているものが違うのでしょうね。