木曜日の本棚

本と本に関することの記録です。

ゴールデンカムイ最終回

ゴールデンカムイ、最終回を迎えましたね。いい終わり方でした。大幅加筆があるそうだから、単行本発売が楽しみ!

そういえば、あれ英語版もあるし、アニメも海外配信されているから、アイヌや北方ツングース系民族について日本人より知識のある外国人はいそうですよね。

 

ロシアのウクライナ侵攻以来(あ、その前からか)、日本人なのに自国内の民族や文化に対して、ほんと知らないし興味もないんだな、と分かる言葉をよく見かけたので。

 

ゴールデンカムイをきっかけに、もっとアイヌや北方ツングース系民族の歴史やそれぞれの文化の特色、物語の背景にある当時の歴史状況を知りたいと思った外国人の方が、リスペクトがある分ちゃんとしたことを深く知っていそう。

トンデモ言説を滔々と話す日本人もいますものね。

 

アレクサンドル二世暗殺あたりは、こうくるか!って感じで、ロシアの歴史を知っていればより興味をひかれそうだし、アイヌ関連書籍ならイザベラバードもジョンバチェラーも書いているから、英語圏なら読む本に困らないでしょうしね。(大英博物館で開かれたマンガ展でのメインビジュアルがアシリパさんだから、「日本のマンガの多様性を表すにはこれがいい」と選んだ学芸員同様、ある程度の知識層ならゴールデンカムイ読む前から、アイヌについて知っていそうだし)

 

 

 

鶴見中尉が新潟出身というのも上手いよねえ。いくら優秀でも明治期の陸軍なら、戊辰戦争の負け組出身者が軍の本流には乗れないもの。

私、ゴールデンカムイを初めて読んだ時、連想したのは山田風太郎の「地の果ての獄」なんだけど、山田風太郎も事実と物語の組み合わせ方が上手いよねえ。

2歳の樋口一葉と8歳の夏目漱石が出会ったしまう物語を書く人だし。(また史実を考えると、あり得そうな嘘なんですよね、これ。f^_^;)

ゴールデンカムイ実写化もするそうだけど、この時期に実写映画?ということで製作前から出来を不安視されているけど、どうなるのかなあ。

アニメ版並みに、アイヌ文化をリスペクトしてくれるといいのですけどね。

 

家族と社会が壊れる時

東大の入学式での祝辞と早大の入学式での祝辞が比較されていまして。

https://www.waseda.jp/top/assets/uploads/2022/04/2204_speech_koreeda.pdf

 

東大の祝辞の方はかなり評判が悪いですが、河瀬監督からの祝辞だと思うとあまり違和感はないんですよね。

だって河瀬監督「玄牝」撮った人だし。

genpin.net

あの映画が撮られたの吉村医院での「幸せなお産」にこだわって、逆子だった赤ちゃんを亡くした人のブログが「どんなホラーよりも怖い」と話題になった後でしたものね。

natrom.hatenablog.com

だから吉村医院の掲げる「幸せなお産」が、現代医療なら救えた赤ちゃんの命を救えないものであることも。帝王切開という現代医療を避けたがるものであることも。その結果、赤ちゃんが死んでも「これも天命」と子供の両親に言わせるものであることも知ったうえで、あのドキュメンタリーを撮っているんですよね。

natrom.hatenablog.com

まあ、個人の信条や思想や信仰に他人がとやかく気はないですが、ハイリスク妊婦だと分かった時点で転院すれば助かる可能性があった赤ちゃんと、手遅れ寸前になってから運び込まれる妊婦の為に緊急対応とらざるを得ない周辺産科の医療関係者は何か言う権利はあるんじゃないかな。そういう哲学につきあう義理はないですしね。

 

なので河瀬監督については現実よりも観念を優先する人だな、と印象があったので、あまり驚かなかったし違和感もなかったのです。

 

逆に評判の良い早大の祝辞ですが、こちらもあまり違和感はなくて。是枝監督、ケン・ローチ監督大好きだものなあ。

ケン・ローチに憧れて続けてきた人が観念でものを語る筈がないのよ。

社会の暗い部分をどう目を逸らさずに見つめるか。声なき人の言葉をどうリアルに伝えるか。単純な二項対立に終わらない複雑な現実をどう描くか。

それを目指してきた人が、憧れの師匠に呆れらるような祝辞を贈る筈がないのよ。この本でもケン・ローチまったく手加減してませんしね。

今の社会への怒りで引退を撤回して、撮った映画が「家族を想うとき」だもの。この人に負けないよう社会を見つめ続けたと思うよねえ。

www.nhk.or.jp

河瀬監督と是枝監督の祝辞の違いって、世界を見つめたい人と社会を見つめたい人の違いのようで面白い。

 

そして「ゴールデンカムイ」がもうすぐ最終回なので、河瀬監督の祝辞を読むとやっぱりちょっと笑うよねえ。鶴見中尉とアシリパさんの会話の方が余程深いし、考えさせられるもの。

youngjump.jp

まあ、野田さん国境に接する北海道出身者だし、内陸の古都出身の河瀬監督とは見えているものが違うのでしょうね。

 

 

米国人一家、おいしい東京を食べ尽くす

Netflixで「初めてのおつかい」が流されて海外で話題になっているという話を聞いて、この本を思い出しました。

togetter.com

子供だけで、買い物に行くなんて危険過ぎて海外ではあり得ないことだから、それは話題になるでしょうね。

この本、アメリカ人フードジャーナリストが日本で暮らした一夏を綴った本だけど、この中「僕は今日、アメリカでは絶対出来ない冒険を娘に与えた。

今住んでいるアパートの近所に僕達お気に入りのケーキ屋さんがある。

今日、彼女は一人でそこに行って、自分だけで僕達のおやつのケーキを選んで買ってくるのだ。

もちろん僕だって、アメリカでは絶対にそんなことをさせない。

でも、ここは日本だ。11歳の女の子が昼間一人で近所のケーキ屋さんに買い物に来ることを、何の不思議にも思わない国だ。

娘は、僕の与えたミッションを果たし、自分が大冒険を成功させたことに満足したので、この日のお茶の時間はたいそう素晴らしいものとなった」

 と書かれていまして。読んだ当時外国人観光客の増加が伝えられていた頃だったので、そりゃ外国からの観光客増えるわ、と思いました。

誰だって子供連れで旅行するなら、子供が安全な国の方か嬉しいもの。

ウクライナの避難民、女性と子供ばかりなので、早速国境周辺に人身売買組織が網を張っているというニュースがありましたね。

www.unicef.or.jp

用途は違っているかもしれないけれど、わりと今でも海外では山椒大夫の世界が通用してしまうところがありますね。

 

 

 

 

 

 

カティンの森

ウクライナの民間人虐殺、どうしても「カティンの森」を思い出すなあ。あれも救いがない映画でした。

www.bbc.com

橋本さんをはじめ

「国民の命を守るために早く降伏した方がいいよ」

 とテレビで言っている人を見て、この人東欧史も東欧を舞台にした映画や小説にも興味がないのだろうなあ、と思いました。

少しでも興味あったら部外者の日本人が、あんなに軽々しく言えませんよねえ。

よく分かってない人達は、余計な口出しをするよりも求められていることをした方がいいと思うの。

妻子が安全なところにいると思うだけで、少しは心が慰められる人はいるでしょうし。

 

この事件もソ連とドイツが、どちらも相手の仕業だとプロパガンダしあったけど、戦後ソ連軍のしたことであることが明白になりましたね。

当時との違いは、情報機器の発達で、他者が起こったことへの検証がしやすくなったことかな。

 

逆に言えば、昔は軍関係者か調査団に加わった人しか見ることの出来なかった生々しい光景を一般人も見ることの出来る時代になったということだから、ウクライナ関連のニュースを見ることが辛くなった人は、見なくてすむように離れた方がいいと思うの。

 

欧州では、歴代系の聞き取り調査をする人はメンタルカウンセリングを受けることが常識となっていますものね。

人の辛い体験を聞くと、それを追体験することになって心を病む人が続出したから、そうならない防御の為に、精神科医が聞き取り調査している人のカウンセリングを行って、ヤバそうになっている時はストップをかけるのですよね、

 

人の辛い体験を聞くだけでも病む人か出るのだから生々しい映像から離れたいと思うのは当然の心理的防御だと思うの。

映像ではなく実際にその光景を目にした人には、それは難しいことですけどね。

 

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格差と分断の社会地図

サヘル・ローズさんの話がFBで、流れてきまして。

fujinkoron.jp

シェアしてくれた人は、わりと素直に感動されまして。確かに良い話でシェアしたくなる気は分かるのですが、シェアされた記事を読む前に、こちらの本を先に読んでいたので、ちょっとひっかかってしまったのですよね。

苦労人の人情話は受けるよねえ。でも、この人情話に受けている人達のうち、どれくらいサヘルさんのように助けてもらえなかった子供のことを知っているのかしら?と。

光の部分だけ見ていると闇の部分は分からない。

サヘルさんのことは、「移民はなぜギャングになるのか―国籍格差」という国が見ないふりをしてきた移民の子供達について書かれた章の中で書かれているのですよね。

親に連れられてきた外国人労働者の子供が、文化も言葉も違う人間が日本で暮らす為の受け入れ体制も整えないまま、労働力だけを必要としてきた社会の中で、教育からも、社会保障からもこぼれ落ちていく様を綴られていましてね。

言葉が分からないので授業について行けず、小学校も中退し、教育も受けられない。親も子供のことは気にしているけれど、不安定な環境で働くことの方に時間を取られて子供を構ってあげられない。

そうやって社会から放置された子供が、やがて大人になり生きる糧を求めて国内にいる外国人をターゲットとした犯罪者になる。

そういうお定まりのパターンにはまってしまった子供達と同じような環境にありながら、そうならなかった対比例としてサヘルさんの話が出てくるのですよね。

小学校時代、日本語が分からず、授業についていけないサヘルさんに校長先生が声をかけて、授業についていけるように校長室で一対一で日本語の授業をしてくれた、というエピソード。

同じような環境にいながらも助けてくれる人がいた人といない人では、これだけの違いがあることの実例としてサヘルさんがあげられていたのですよね。

どう外国人を受け入れるのか?というシステムを作らないまま、行政の努力と現場の善意に丸投げした結果、良い人に出会えた運の良い子は、日本に溶けこみ、貧しい中でも周囲の支援を受けて頑張り、大学まで進学してタレントになり。良い人に出会える運のなかった子は小学校中退でギャングとなる。

どちらになるかは、ひたすら運という日本の現状が書かれていましたね。

 

石井さん、こういう運による格差がついてしまったことについて国の不作為をあげてましたね。

「国は、こういうことは予想出来なかったというけれど、労働力目当てだけでトルコ移民を積極的に招いたドイツの例を見れば、受け入れ体制を整えないまま外国人を入れれば、どうなるか予想できた筈だ。このままの状態を放置すれば諸外国同様、色々な問題が起きる」

 と、その反例として、不就学児童0を目指す岐阜県可児市の取り組みを紹介していましたね。

 実感として支援の必要性を痛感しているからだろうけど、子供をはじめ外国人への取り組みは国よりも地方自治体の方がまともなのですよねえ。

 だから、そういう自治体に出会えるかも、これまた運なのですよねえ。移民同士の情報ネットワークで、あそこは暮らしやすいという情報が飛び交っているかもしれませんけどね。

 

この本、日本の中の見えない格差「所得格差」「職業格差」「男女格差」「家庭格差」「国籍格差」「福祉格差」「世代格差」について触れられているけれど、それぞれの章について一冊くらい悠々書ける内容を一冊に纏めているので(実際、これ石井さんの別の本でも読んだな、と思うことも書いてあるし)、石井さんのわりには内容が薄いかな?と思わないでもないけれど、タイトルに「16歳からの“日本のリアル”」と書かれているように、自分の今いる環境が世の中の全てだと思っている高校生ぐらいの人を対象とした本なのでしょうね。

 

この国の中は、君が見ているものだけが全てじゃないよ。君が見えていない。そういうことがあることすら気づいていないことが、この国の中にはあるよ。さあ、君は見えなかったものを今見た。これから、どう考える?

 

この本のスタンスは、だいたいこれかな?だから高校生だけでなく、「この国で何が起こっているのか?」を知りたい大人にも格差とは、どういうことか?を理解する為の入門書としてはちょうどいいのじゃないかな?

もっと深く知りたければ色々ルポタージュが出ているわけだから、他の本も読み進めていけばいいし。鈴木亘教授の福祉論が、それなりに評価されているところを見ると

「この国は分断されていて、違う世界にいる人のことは見えていない」

というのは事実でしょうし。

 

石井さんが危惧しているのは、

「『ある』のに『見えていないから、無いことにされていること』を放置した結果、この国に何が起こるか?」

でしょうし、既にそれは就職氷河期世代という身近な実例がありますからね。

 

 

カラカウア王のニッポン仰天旅行記

図書カード3万円企画に皆ワクワクするのは

「ああ、あの時お財布を考えて買わなかったけど、どうしてあそこで買わなかったんだろう!」

 と、思う本があったりするからじゃないかと思うのですよね。

 本は一期一会で、その時逃したら二度と手に入らないなんてこともあるからなあ。

 出版不況と言われて久しいせいか、どんなに面白い本でもあっさり絶版になったりしますものねえ。

これ、面白かったのに文庫の方も絶版なんだものな。

明治時代、日本を訪れたハワイの王様の訪問記なのだけど、ハワイの王族の目から見た当時の日本、というだけで面白いのに、王様単なる親善旅行の為日本を訪れていたわけではないのですよね。

 

当時のハワイはアメリカに併合される直前で、危機感を感じた王様は、同じ非白人国である日本と手を結ぶことで、この危機を乗り越えようとしたのですね。

で、王様が画策したのが自分の姪であるカイウラニ王女と皇族である山階宮定麿王との結婚。

当時の日本には、アメリカを敵にまわす余裕はないから、この縁談は実現しなかったのだけど、もし実現していたら面白かったでしょうね。

カイウラニ王女、カラカウア王の後、王位についたリリウオカラニ女王が後継者に指定していたから、何事もなかったら女王になっていた筈の人なんですよねえ。

ハワイの女王の夫が日本の皇族。

欧州だとビクトリア女王の例があるけど、アジア圏だと王配が外国人の例ってあったかな?

日本の皇族で外国人と結婚したのも女王ばかりですものねえ。

 

もし、この縁組が成立して、ハワイ王朝が倒れなかったら、いったいどんな世界になっていたのでしようね?

 

3万円の図書カードをもらったら何を買うか?

作家に3万絵の図書カードを与えて「好きな本をなんでも買っていいですよ」というこの企画、各作家の性格がほの見えてとても楽しい!(^◇^)

そして、ほとんどの作家が予算枠を越えて、超過分を自腹切っているのが更に楽しい。

togetter.com

本好きでなくても、「3万円あげます。自分の好きなものをなんでも買っていいですよ」と言われたら、音楽好きでも洋服好きでもどうなるか想像がつくでしょう。(あ、洋服は予算3万じゃ厳しいかな?)

どの作家が何を買ったかまで記されているから好きな作家読んだ本を追いかけるという楽しみ方もできますね。(^◇^)

そして、この「好きな本をなんでも買っていいですよ」子供を本好きにしたいなら一番確実なやり方なんですよねえ。

しかし「あなたが選んだ本を1冊だけ買ってあげます」を言える親はいても、選んだ本に口出ししない親はどれくらいいるのかな?

自分が気に入らない本だとあれこれ口を出して買う本を変えさせる親は結構いそうですよねえ。

そしてこれをやると子供が本嫌いになる確率は高いよね。