木曜日の本棚

本と本に関することの記録です。

夜の木の下で

教育虐待が原因で親を殺してしまった人のニュースが流れておりまして。

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それを見たら、この中に収録されている「リターンマッチ」を思い出しました。

「リターン・マッチ」元は1997年に発刊された「いじめの時間」といういじめをテーマにした小説アンソロジーの中の一編だったんですよね。

「いじめの時間」江國香織とか角田光代とか柳美里とかの賞取り作家をずらりと揃えた競作アンソロジーだったけれど、私はあの本の中では湯本さんの話が一番好きだったので、こちらに再録された時は嬉しかったなあ。

 

教育虐待、昨今ようやくメディアも話題にしだしたけれど小説だと20年以上前から、マンガだと40年以上前から、そういう問題があると認識しているんですよね。

 以前、中学受験が原因で父親が息子を殺してしまった事件があったけれど、あれを聞いた時「あ、グレアムのパパ」と思ってしまいました。

あっちは息子を殺したではなく、息子の片目を失明させた、だけど自分の意に沿わない息子を暴力を使ってでも従わそうとした結果起こったことという構図については同じなんですよね。

 グレアムは、自分の自我を殺そうとする親の元から逃げ出したから、自分も死なず親も殺さずに済んだけれど、報道された事件の加害者のように、自分が死ぬか親が死ぬかどちらかでないと、この状況から逃れる術はないと思い詰めている人は今でもいるんでしょうね。

この国の様々な制度が家族主義で設計されていることの問題点は今までにも何度も指摘されているけれど、家族は助けあうものでありDVや虐待は存在しないという考えにしがみつきたい人が制度設計の決定に力を持つ限り状況を変えるのはなかなか難しいでしょうね。

 肉体への虐待やDVでさえ、そういうものがあるということを世の中が認識するまでかなりの時間がかかったのだから、まして精神へのDVや虐待は理解されるまでに相当な時間がかかりそうですね。

 

夜の木の下で

夜の木の下で