木曜日の本棚

本と本に関することの記録です。

江戸っ子長さんの舶来屋一代記

こういうツイートがまとめられていまして

去年、世の中から消毒用アルコールが消えた時。自粛の大打撃で苦しかったはずの酒造業界が物凄いスピードでアルコールを生産・流通させてくれた。

今の心細さはいつ迄も続かないんだ、と助けられた事、忘れたくない。 微力だけど、肝臓労りつつ、お酒を買って恩返ししたい。無くなったら困るのだもの。

togetter.com

それに対して、手のひらを返されたのは酒造メーカーだけでなく国内マスクメーカーも同じだという話が出ておりました。

news.yahoo.co.jp

 

状況が変わったら手のひら返しというのは、よくあることだけど、同じ手のひら返しでも、直接恩を受けた人が存在している間は温情をかける姿勢を取った方が手のひらを返しする側が度量があるように見えますね。

(直接、温情かける相手がいなくなった後はどうなるのか?ということを覚悟しておかないとどうなるのか?の結果もサンモトヤマのその後を見れば分かるけど。まあ、あれは時代の変化についていけなかったせいもあるけれど)

 

これ海外ブランドというものが、ほとんど知られていない時代に販売権を獲得して日本に海外ブランドを広めたサンモトヤマ社長の一代記なのだけど、販売権を獲得する時も販売権を返上する時も人間心理というものをよくついた方法を取っていて凄く面白い。(ご本人は、あまりそれを理解していなそうだけど)

 

販売権を与える時、相手側が渋るのは理解できるのですね。サンモトヤマの創業者が「これこそが一級品。こういう美しいものを売りたい!」

 と見込んだだけあって各ブランドともそういう一級品をためらいなく買える層が顧客。

「敗戦国の東洋人がうちの製品を取り扱いだって?アハハ面白い冗談だね」

 と、こういう反応になってしまうのは無理がないのですよね。下手なことをしたら自社ブランドに傷がつくし、本来のターゲット層にそっぽを向かれる。

 だから自社ブランドに誇りと愛情のある会社なら、いやあ面白い冗談だね扱いをされても不思議ではない。

(同じようによく知らない東洋人から自作をアニメ化したいと申し出を受けてキッパリと断ったのがリンドグレーン

リンドグレーンの版権を管理している団体は、後でその東洋人が宮崎駿高畑勲であったことを知って残念がったそうだけど、その時を逃したら仕方ないよね。

「幻の長くつ下のピッピ」を出しているから宮崎駿側にとっては既に過去の思い出になっているし。ゲド戦記の例もあるからタイミングを逃したものについては固執しない方がいいのでしょうね)

 

しかし制作側に体力がないからリンドグレーンに断られたら素直に引き下がざるをえなかった宮崎駿達とは違って江戸っ子長さんは諦めない。どうしたらOKをもらえるかを考える。

 これは、まあ落ちますよね。さすが人情の機微に通じた江戸商人。プライドの高い相手にどうやって自分を信用してもらえるかを考えて徹底してますもの。

 

 販売権を返上する時も、この人情の機微に通じたところが幸いしたのでしょうね。相手の目線になって考える。

 商品でなく、美を売る、外国の文化を売るという姿勢を貫いて各ブランドが日本で知られるよう力を尽くしてきたけれど、時代が変わり、相手はサンモトヤマに任せるのではなく日本という市場を全て自分達で管理したいと考えるようになった。

 そこを察して悩んだ末に行動を取る。損して得取れ。ブランド側からしたらサンモトヤマの申し出は願ったり叶ったりだったのですが、自分達から言い出したのではなく相手から言われたとなると冷徹な経営判断ではなく、ちょっと情が出てくるわけですよ。

 

 自分達のブランドを日本で広める為に力を尽くしてきた相手だし、ここでバッサリ切ってしまうというのは美しくない。これぐらいだったら譲歩してもいいかな?そういう反応を相手から引き出したのはサンモトヤマ創業者の人間力でしょうね。

 

そして、この方が亡くなって二年後、サンモトヤマは倒産する。一面の焼け野原となった国で、「美しいものを売る。文化を売る」と夢を見た人達の時代の終焉ですね。

 

amazonで、この本を検索するとおすすめ本として「安いニッポン 価格が示す停滞」が出てくるのですよね。こういう切り口でしかも物事を捉えられなくなったからこの国は停滞したのだろうな、となんとなく納得してしまいますね。